【コラム】ボーカロイドキャラの商用利用の考慮点(1) 

 先日、セガサミーの株主総会にて、サミーのCEOから「初音ミクをパチンコ化したいが版元が許可をおろしてくれないので実現できない、今後も実現に向けて進めていく」という発言があった。「パチンコ業界」という、一般的にあまり健全ではないと思われている業界での起用をめぐり、大きな議論を呼んだ。
 初音ミクの商業利用についてはこれまで何度か議論を呼んでいる。今年2月の雪まつりに合わせて販売された商品の一部や、モバゲーで開始された「ぐらふぃコレクション」が、単に既存の商品にボカロキャラを貼り付けただけではないかという指摘があがった。金儲けのためだけにキャラを担ぎ出しただけである、と受け取られたのである。
 同人作品に対しては寛容なユーザー・ファンではあるが、商業製品に対してはとたんに態度を硬化させる。これらの声に呼応して、また自身の製品のブランドイメージも勘案して、「初音ミク」のキャラの版権を持つクリプトン社はそれぞれの企画への使用許可を熟慮を持って決断を下している。利益を生む「ブランド」ではあるが、使いどころとその舵取りが非常に難しい状態になっているのである。
 これから数回にわたり、ボーカロイドキャラを商用利用する際のポイントについて、考察していく。



1.商用利用において一部のファンが態度を硬化させるポイントとその理由

 ボーカロイドキャラ、特に「初音ミク」は、すでに世界中にファンを持つ、大変大きなビジネスチャンスを含んだブランドとなっている。「初音ミク」のブランドがつけば売れる、そう思われていて、数多くのオファーが、著作権を持つクリプトン社に行われている。
 これはもちろんファンにも認知されている。彼ら、特に熱心なファンの一部は、このブランドがただの「金儲けの道具」として乱用されるのを避けたいと思っている。思い入れがあるキャラである以上、意味があるところに大切に使ってもらいたいと考えているのである。
 「大切に使う」とはどういうことか。私は2つのポイントがあると考えている。

・蓋然性
 その商品にボーカロイドキャラをつける意味があるか。音楽や映像、絵画作品との関連があるか。つまり「ブランドをつければ売れるだろう」で作ったものではなく、「ボーカロイドキャラのこの商品を作りたい」という意思が見て取れるかどうかをもって、「金儲けの道具」としてブランドを使っているわけではないことの担保としている。
 音楽と映像を中心とするリズムゲームであるSEGAの「Project DIVA」や、かわいらしい人形であるグッドスマイルのフィギュアやGiftのぬいぐるみなどは、音楽や映像、立体物の制作という文化にマッチしており、また製品としての質も高いことから、高い評価を受けている。
 一方で雪まつりで販売された「ルカの名もなきワイン」や、モバゲーの「ぐらふぃコレクション」などは、キャラクターと商品やゲーム内容との関連が薄い、と一部のファンから批判された。ただのワインや従来型のカードゲームにボーカロイドキャラクターを貼り付けただけの代物だ、と受け取られたのである。
 それぞれの商品が実際どうであるかはさておき、「ボーカロイドキャラクターと関連性があるか」は、ファンの間で重要な判定基準となっていると考える。

・適用される商品の持つイメージ
 ボーカロイドキャラは、基本的に外見とそれを保管する情報以外の設定を持たない。これによって「個々人のボーカロイド観」を持つことが可能であり、どんな表現でも許容できることが、ボーカロイド文化の発展に大きく寄与してきた。
 しかしながらこのイメージはどちらかと言うと「クリーン」なものであり、例えば麻薬の使用・販売、テロリズム、ヤクザ・マフィア、ギャンブルといった「アウトロー」な分野にはそぐわない、と考えるファンがいる。
 結果、そのようなものを感じさせる分野への利用については、風当たりが非常に強い。特に長年オファーを続けているパチンコ業界に関しては、ヤクザとのつながりや利用者へのイメージの悪さ(過剰債務や赤ちゃんの放置死など)もあいまって、非常に印象が悪く、今回サミーのCEOが「パチンコ化を目指している」と言っただけで「万が一そうなったらファン活動をやめる」と宣言するファンや「パチンコ化したボカロ製品は投げ捨てる」と宣言した作家も現れるに至った。
 一方で、このようなクリーンなイメージを求めるファンに対して「一方的なイメージを押し付けている」と反発するファンもいる。彼らにとっては「どんな表現でも許容しうる」という特性こそがボーカロイドの文化にとって重要であり、どんな形であれ特定のイメージを求めるファンを「脅迫するエセファン」であると厳しく糾弾し、クリプトン社が対応に苦慮するのも、こうしたファンが「脅迫を行っている」からであると断罪している。
 どちらのスタンスがより「正しい」ファンであるか、については議論の余地があるだろう。どんな利用のされ方をされても、それはそれとして受け入れるのがファンであるとする考え方もあれば、大切なものであるからこそ極端な使われ方、例えばテロ組織のロゴに利用されるようなことは避けたいと言う考え方もある。どちらのスタンスを取ったからといって、片方を「配慮に欠ける」とか「脅迫集団である」とか一方的に非難するのは正しくないだろう。お互いに自分の立場から考えた結果であり、それぞれ尊重されるべきであろう。

 今回は、最近「パチンコ化」で話題になった、イメージについてさらに見ていく。


2.メーカーによる判断

 ボーカロイドの代表的ブランドとしての地位を確立した「初音ミク」の版権を持つクリプトン社は、これらのユーザー・ファンの声はもちろん、その時にボーカロイド・ブランドの置かれた状況に応じた柔軟な対応を行っている。
 例えば酒井法子氏の逮捕劇前後に発表された楽曲「白いクスリ」については、発表にものいいをつけた。これは当時、初音ミクは社会に十分な理解を得られていない中、過激な風刺によって、社会に対する無用な刺激を避けたものと考えられる。
 一方でパチンコ化に関しては、以前は「一律でお断りしている」と言っていたが、最新の声明では「不安になるような営利活動を行わせない」と態度を軟化させている。「白いクスリ」の一件で「やりすぎではないか」と批判があったことからも、ブランドイメージの普及や安定の度合いに従い、より柔軟な対応で自由度を上げていこうとしていると考えられる。
 とはいえ、クリプトン社はどちらかと言うと保守的で、クリーンなブランドイメージを好み、利用に関しても「適正」を強く求める傾向にある。規律の正しさを求めるあまりに「風紀委員のように堅苦しい」という印象を与えるほどである、という話を耳にしたことがある。そのため、どうしても「クリーン」なイメージが採用されがちである。自由な活動を求めるユーザーやファンの一部からは「保守的なファンに脅されてやむなく従っている」ように見えるのだろうが、サミーのCEOが言っていたとおり、クリプトン社はクリプトン社で「お堅い」会社なのである。
 GUMIを擁するインターネット社は、この点比較的フランクであり、利用についても気軽で寛容であるといわれている。Vocaloid 3対応も初音ミクに先んじており、ニコニコ動画イベントを中心に露出が増え、人気も上がっている。GUMIの方が先にパチンコ化される可能性も十分にある、と言えるだろう。


3.ブランドイメージと商業活動への適用

 では、自社の商業活動へのボーカロイドキャラの適用をしたい場合に、企業はどう考えればいいだろうか。
 まず、自社の製品イメージと、版権を持つ会社のブランドイメージとのすりあわせが必要となるだろう。初音ミクであれば、版権を持つクリプトン社がより堅いイメージを好んでいる以上、自社製品をより堅い方向にシフトしていかなければいけない。パチンコ業界であれば、一般に広まっている「不健全」なイメージ、例えば暴力団とのつながりであるとか、高額なギャンブル性であるといった部分を和らげる努力が必要になるだろう。この努力は、インターネット社のGUMIを起用する場合には、もう少し楽になるかもしれない。
 また一部のファンに対しては、それらの「すり合わせの努力」をアピールする必要が出てくるだろう。これにより、ボーカロイドキャラの採用を許可した会社の判断を補強し、同時によりイメージを近くすることで、拒否していたファンの理解を得やすくでき、新たな顧客として取り込むことも不可能ではない。
 もちろんどれだけやっても嫌がるファンは出てくるだろう。ごく一部のファンが拒否しているからと言って進出するなということは言えないが、他社のブランドを利用し、サミーのCEOが言っていたような「ファンがついてきてくれる」製品を目指すのであれば、あまりにも反発が多い中でやることは得策ではないし、相手先ブランドにも影響を与えかねない。自社製品・サービスがネガティブなイメージを持つ業界であればあるほど、進出には慎重な決断が求められることになるだろう。
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 先日、セガサミーの株主総会にて、サミーのCEOから「初音ミクをパチンコ化したいが版元が許可をおろしてくれないので実現できない、今後も実現に向けて進めていく」とい
  • [2012/06/23 06:18]
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